保育士の離職率が高い?厚生労働省調査のまとめとその理由
保育士不足が社会問題化する昨今ですが、その原因の一端は保育士の離職率の高さだともいわれています。
たしかに、保育士は離職率が高いとよく言われます。その原因は給与の低さや、労働環境の悪さなどが挙げられています。
今回は、問題になるほど保育士の離職率が高いのか?どのくらいの割合なのか?離職の理由は?などをリサーチしました。
保育士の離職率は?厚生労働省の調査
待機児童問題が深刻化する中で、厚生労働省も保育現場の調査を行っています。
2015年には「保育士等確保対策検討会」が立ち上げられました。
この検討会は、待機児童解消加速化プランに基づき、保育の担い手の「量的拡充」と「質の向上」を図ることを目的に発足しました。
この「保育士等確保対策検討会」の第3回会議の公開資料である「保育士等における現状」のレポートから、保育士の離職率をご紹介します。
・離職率
「保育士~出入の状況~」によると、常勤保育士の数は320,196人で離職者の数は32,823人となり離職率は10.3%だそうです。
そのうち私営、つまり私立保育園などの民間経営の保育園の保育士に限っては12.0%と公立保育園で働く保育士よりも離職率が高くなっているようです。
公立保育園の保育士さんは「公務員」という立場ですので、定期的な昇給や産休・育休などを取りやすいといった待遇面で優遇されていることが一因かも知れません。
・勤続年数
公務員は給与面や待遇面で優遇されていますので離職率は低く、勤続年数も長くなります。
それに対して私立保育園の保育士さんは、昇給も少なく産休や育休も取りにくいと感じる職場が多く、中途退職する人が多くなるようです。
実際、勤続年数14年以上の保育士さんは私立では20.2%なのに対し、公立では40.4%と2倍の開きがあります。
厚生労働省の調査から見えてくる離職理由
ではこの「保育士等における現状」の調査結果、保育士の離職率10.3%を踏まえた上で、保育士の離職の理由を詳しく調べてみましょう。
このレポートの「保育士における現在の職場の改善希望状況」、現場の保育士さんに施設のどこを改善して欲しいかを聞いたアンケート(出典:東京都保育士実態調査報告書)によると、離職理由は以下のようになっています。
- 1位「給与・賞与等の改善」59.0%
2013年の調査では、保育士の平均年収は3,325,000円、保育士の年収が低いのは国政の場でも取り上げられるほどです。 - 2位「職員数の増員」40.4%
つまり人が足りないということですね。 - 3位「事務・雑務の軽減」34.9%
結局は人が足りていないため、しわ寄せが来るのかも知れませんね。
その他の保育士の離職理由は?
保育士の離職理由は、給与の低さや雑用の煩雑さばかりではありません。厚生労働省の調査では見えてこない、保育現場の声をご紹介します。
実際に保育士を辞めた、転職したという人の体験談などから、保育士を辞める原因となったことをいくつかご紹介します。
- 1位 「勤務時間が長い!」
会議や事務仕事が長引いて退勤時間はいつも深夜、書類の作成や製作物の準備などは結局持ち帰り、イベントや行事が目白押しでやることが限りなくある、などの不満が多数あるようです。 - 2位 「人間関係がギクシャク…」
先輩や同僚のマウンティングが激しく気の休まる時が無い、子どもは可愛いが保護者対応に気を使いすぎてツライ、保護者からのクレームがやたら多くてしかも理不尽…という声が上がっています。 - 3位「 保育方針が違う」
もっとその子にあった接し方をしてあげたいのに、事なかれ主義の園長と合わない、自分が納得できないような保育はしたくない、保護者受けばかり狙った中身の無いオリジナリティーなどいらないのでは…といった価値観の違いもあるようです。
他にも、「やりがいが感じられない」や、「思っていたのと違う」といったこと、さらに「実は子どもが嫌いだと分かった」などの理由もありました。
逆に、離職率の低い保育園とは?
では、保育士さんが長く勤める離職率の低い保育園はどういった施設なのかを考えてみましょう。
先程の離職理由のポイントである「勤務時間」、「人間関係」、「保育方針」が勤務する保育士さんの希望に近い保育園は離職率が低いのではないでしょうか?
ということは…
- 勤務時間
シフトの人数も多く、余裕をもって保育が出来る勤務体制のためサービス残業がない。
- 人間関係
縦・横のつながりが緊密で、職員間に信頼関係がある。
- 保育方針
常に子ども第一を考え、保護者とも良好な関係が築かれている。
といった保育園はある意味“理想の保育園”ではないでしょうか?
実際にはすべてが完璧な保育園は存在しないかも知れませんが、より理想に近い保育園を探すことは出来ます。
面接や園見学、園のホームページを閲覧するといったことで少しはそのポイントを確認することができます。具体的には…
・園見学や面接で注意して観察すべき事
- 人間関係
保育室での保育士同士あるいは上司と部下のやり取り、保育士の年齢が偏っていないか - 保育方針
叱ったりほめたりといった実際の子どもへの接し方、送迎の保護者とはコミュニケーションが取れているか - 勤務時間
ひとりの保育士がいくつもの役割を受け持って忙しくしていないか
などのポイントをしっかり確認しましょう。
・園のホームページで確認すべき事
- 保育方針
園の保育方針や保育理念
- 勤務時間
年間スケジュール
を見ることができます。全てわかるわけではありませんが、ある程度判断の基準にはなるかも知れませんね。
離職率の高い保育士さん。離職後はどうしているの?
理想の保育園に就職できれば良いですが、現実はそう甘くありません。それゆえ高い保育士さんの離職率ですが、離職した後一体どの仕事に転職することになるのでしょうか。
・転職する割合はどれくらい?
転職したいと思っている現役保育士さんは3割ほどいらっしゃるそうです。実際に保育園をやめた方の内3割ほどは保育士を続けられるようですが、約3割は他業種に転職したけれどまた保育士にカムバックするそうです。
そして、約3割の方が他業種に転職してその職に落ち着いているそうで、意外に他業種への転職も成功されている方は多いようですね。
既出の「保育士等における現状」によれば、離職者3.3万人のうち2.6万人は業界内での再就職なのだそうです。やはり専門職ですからせっかくのスキルを捨ててしまうのはもったいないですからね。そこで、具体的な転職先をいくつかご紹介します。まずは同じ業種内からご紹介します。
・資格を活かして転職する場合
- 幼稚園教諭
資格を持ってさえいれば保育のスキルを活かせますし、むしろ仕事内容はほぼ変わらないので転職による不安は少ないのではないでしょうか? - 企業内保育園
こちらも保育のスキルが活かせるのでシフトしやすい転職先です。園児獲得競争(?)と無縁なのでゆったり勤務できるかもしれませんね。 - 学童保育
これも同じように保育のスキルを活かせる職種で、勤務時間も短く体力面で不安のあった保育士さんにはオススメです。 - 託児所やベビーシッター
スキルは活かせますが、保育園と較べても待遇面など労働条件は良くないかも知れません。
同じ保育士に転職、つまり勤務する保育園を変えるという決断をする保育士さんも、環境や待遇、保育方針など自分の理想に少しでも近づければ転職は成功ではないでしょうか?
・他業種に転職する場合
- 一般事務
園での事務仕事で意外にパソコンのスキルはあるかも知れませんし、子どもの世話に疲れたという人はいいかも知れません。 - 看護師・介護士
資格取得は大変ですが、誰かをお世話するという部分では比較的よく似た職種なのですんなり転職できるのでは? - 接客業
ショップ店員などの接客・販売業は、保護者対応などで培ったコミュニケーション力が活かされるのではないでしょうか?
といった職種に転職される方が多いようです。一般事務や接客業など一見全く関連が無いような職種でも、保育士として培った経験は無駄ではないようですね。
転職する際は、転職エージェントなどのアドバイザーを利用したり、サイトに登録したりして非公開求人などを紹介してもらうなど、いろいろな選択肢があります。
良い職場に転職する方法
それでは、最後に「もう仕事を離れようと思う」とお考えの保育士さん向けに、転職を成功させる方法をご紹介します。
・プロに頼ってしまうのもアリ
仕事をしながら次の職場を探すのであれば、有効なのはプロに頼ることです。
最近は保育士専門の転職サイトもたくさんありますし、コンサルタントに相談できるサービスも各サイトで導入されています。
自分では保育園の労働条件や勤務環境を推し量れない!そう思う方は、コンサルタントに詳細な条件を伝えて「丸投げ」もアリだと思います。せっかくの便利なサービスですから活用してみてください。